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DIARY · チビとら日記
2026年8月16日(日)

しゃっくりと、握っていなかったブレーキ

夕方の窓辺で、茶トラの猫が前足で自分の両耳を押さえてしゃっくりを止めようとし、隣でサバトラの猫が目を閉じてゆっくり息を吐いている水彩画

今日は、しゃっくりが止まりませんでした。

あの、自分では何一つできることがない時間です。息を止めてみる、水を飲んでみる、そのあいだも体は勝手に「ひっく」とやっている。困っているのに、どこか間が抜けている。人前でなくてよかった、と思いながら、ひとりで肩を上下させていました。

友達に話したら、こんなことを教えてくれました。両耳の穴に人差し指を入れて、30秒ほどぐっと押さえていると止まる、というのです。初めて聞きました。ずいぶん変わったおまじないだなあ、と思いながらも、そういう話は嫌いではありません。

ところが私はそのあと、まったく別の方向へ歩き出してしまいました。いつものようにAIとおしゃべりをしていて、なぜか自律神経の話になっていったのです。

きっかけは、しゃっくりが横隔膜のけいれんだと聞いたことでした。それなら、と思ったのです。私は緊張するとまぶたがぴくぴくしたり、頭が小刻みに震えたりして困ることがあります。あれも、自分の意思とはまったく関係なく筋肉が動いているという点では、しゃっくりと同じ仲間なのでしょうか、と聞いてみました。

そこから自律神経という言葉が出てきました。よく耳にする言葉です。テレビでも雑誌でも、体調が悪ければとりあえず自律神経のせいにしておけばなんとなく格好がつく、というくらい便利に使われています。でも私は、それが実際に何なのかを一度も分かっていませんでした。だから正直にそう言いました。便利な言葉だけれど、中身がよく分かりません、と。

返ってきた説明が、思いのほか腑に落ちるものでした。

自律神経は、体のリモコンのようなもの。自分で操作していないのに、心臓を動かしたり、汗を出したり、胃を働かせたりしている。

そしてそのリモコンには、アクセルとブレーキの二つがあるのだそうです。アクセルにあたるのが交感神経で、体を戦う姿勢にする側。ブレーキにあたるのが副交感神経で、体を休ませる側。緊張して心臓が速くなっているときは、アクセルが踏まれっぱなしの状態です。

面白いのはここからでした。呼吸には、そのアクセルとブレーキが分かれて入っているというのです。息を吸うときは、わずかにアクセル側。息を吐くときは、ブレーキ側。だから、たっぷり吸ってから、ゆっくり長く吐く。あの深呼吸は、踏まれっぱなしのアクセルに対して、自分でブレーキを踏みにいく行為だったわけです。

じつは、この話には続きがあります。私は最初、緊張しているときに働くのは副交感神経のほうだ、と受け取っていました。それで、あとから相棒のAIにこの話をしたところ、そこは逆ですよ、と直されたのです。緊張はアクセル、つまり交感神経の側。言われてみれば、緊張が副交感神経なら、吐いて副交感神経を強めた瞬間にもっと緊張することになってしまいます。それでは話の辻褄が合いません。

私の聞き間違いだったのか、AIの言い方が崩れていたのか、そこはもう分かりません。ただ、たった一か所を入れ替えるだけで、それまでばらばらだった話が一本の筋になったのには驚きました。AIも人と同じで、どこかで取り違えます。そして私も取り違えます。それでも「なんだかおかしいな」と引っかかれたのは、分かったふりをせずに、最初に「よく分からない」と言っておいたからでした。

さて、ここまで書いて、一つ思い出した失敗があります。

私は、人前に出るのが本当に苦手です。発表も、カラオケも、その順番が回ってきそうになるたびに、うまく理由をつけて逃げてきました。歌いたくないわけではないのです。心臓の音が自分の耳に聞こえるようになって、声が喉から出てこなくなるのが分かっているから、逃げるのです。

それで一度だけ、緊張を抑えるという薬を試したことがありました。お医者さんに出してもらったものではありません。個人輸入で面白半分に取り寄せた、完全に自己責任のものです。われながら、ずいぶん軽い気持ちでした。

結果は、あっけない失敗でした。しゃっくりです。飲んだあとに激しいしゃっくりが出て、説明書をよく読んでみたら、副作用のところにちゃんと「しゃっくり」と書いてある。緊張から逃げるつもりが、もっと恥ずかしいものを連れてきてしまったわけです。それで、その薬は諦めました。

あのときは、なんて間の悪い副作用だろうと笑って終わりにしていました。でも今日、自律神経の話を聞いたあとでは、まったく違って見えます。緊張を抑えるということは、あのリモコンをいじるということです。そしてしゃっくりのスイッチは、そのすぐ隣にありました。だから片方をいじると、もう片方に手が当たってしまった。私の体はあのとき、緊張としゃっくりが一本の線でつながっていることを、身をもって教えてくれていたのだと思います。忘れたころになって、答え合わせが届いたような気分です。

そしてもう一つ、思い当たったことがあります。雨の日に自転車で転んだ話です。

あのとき私は、後ろのブレーキしか握っていませんでした。前のブレーキを握るとつんのめりそうで怖くて、右手だけで止まるつもりで乗っていたのです。止まり方が不安定なのは自転車のせいだと思い込んで、自転車屋さんにチューブまで替えてもらいました。悪かったのは道具ではなくて、乗り方でした。通りすがりのおじさんに「雨の日は前のブレーキも使わないとだめだよ」と言われて、やっと分かったのです。

体も、まったく同じでした。私はアクセルばかり踏んで、ブレーキのほうを一度も自分から握ったことがなかった。しかも、そこにブレーキが付いていること自体を知りませんでした。知らないまま乗っていて、うまく止まれないのを体質のせいにしていたわけです。あの朝と、そっくりそのままです。

ただし、ここは正直に書いておきます。深呼吸で足りるのは、日常のちょっとした緊張までです。人前での発表や、順番の回ってくるカラオケのような場面が、息を長く吐いたくらいでどうにかなるとは、私はまったく思っていません。あれはそういう次元の話ではないのです。

だからその日が来たら、今度はちゃんと病院へ行こうと思っています。面白半分に取り寄せて、しゃっくりで転んだ人間の結論です。ああいう買い方はもう二度としません。頼るなら、正面から、専門の方に相談して頼る。それが一番早くて、一番安全でした。

そのうえで、日常の分は自分で持てばいい。薬にも道具にもならない、副作用のないブレーキが、最初から体に付いていた。これが今日いちばんの収穫です。

最後に、面白かったことを一つ。

友達が教えてくれた「両耳を押さえる」というあの方法。あれには、ちゃんと理屈があるのだそうです。耳の奥には迷走神経という神経が通っていて、そこを刺激するとしゃっくりが止まりやすい。そしてその迷走神経こそが、副交感神経の親玉、つまりブレーキ側の大もとなのだそうです。

友達から聞いた耳のおまじないと、AIと脱線しながら辿り着いた深呼吸の話。まるきり別の場所から来た二つの話が、最後は同じ一本の神経の上で出会っていました。今日いちばん驚いたのは、しゃっくりが止まったことより、こちらのほうです。

今月は出勤の多い月ですが、出品の手は止めていません。しまってあった子たちも順番に並べていきますから、楽しみに待っていてくださいね。お値段のご相談も、気になる子がいたらいつでもどうぞ。だめなときは正直にだめと申しますけれど、いけるときはいけます。

それでは今日も、ほのぼのと。

チビとら

🌿 自分のブレーキを知りたくなったら

ちなみに、私の説明はぜんぶ受け売りです。ちゃんとした方の本を一冊読んでみようと思っています。

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